どうということもない

どうということもないけど 忘れたくない

Queenとわたし

 

小学五年生の頃、家にある英語のCDを出しては馬鹿でかいラジカセで聞いて、知ってる歌があったらノートに書いて、歌詞を全部写して丸をつけた。ポツポツ単語を分厚い英和辞書で引きながら、軽く和訳をしていくのにハマっていた。英語で無理くりコミュニケーションさせられるALTの授業は苦手だったけど、誰より英語が得意な自信があった。

一番和訳を繰り返したのはQueen。JewelsⅡとグレイテストヒッツを交互にかけて、ある日は母の前でTie your mother downを。ある日は父の前でGood old fashioned lover boyを。ボリューム24で回しながら、私は彼らの音楽、才能に溺れた。90年代から残っていたジオシティーズのサイトで、Queenが日本を訪れたときの発見談や小噺を漁っては悦に入っていた。

昔の少女漫画家が幻想を抱いたように、私自身もQueenに大きな思いを寄せたのだ。

 

かくしてQueenが作り上げた音楽を愛し、英語を学んだオタク少女は、10年後、慶應義塾文学部英米文学専攻へと進んだ。小説が好きだから英米に進んだと思う方も多いと思うし、もちろんその側面もある。だけれどもずっと私は、根底にQueenがあって、実は彼らに英語でインタビューしたいという夢があったのだ。私とThe BOOM宮沢和史先生しか知らなかった事実である。

なぜ宮沢さんが知ってるのかというと、大学3年の時、私の現代芸術の先生だったからであり、その時のレポートでQueenの音楽がどれだけ素晴らしいか漫画にしてお渡しし、最後に私はインタビュアーになってQueenに質問するんだと書き殴ったからです。

さて、ところで金曜にボヘミアンラプソディが吹き替えで放送され、複雑な心境はさらに増した。吹き替えが、ふ、不思議。どこか遠いところに行ったんだなと言う感覚が強い。

 

ボヘミアンラプソディをはじめて観に行った日、私は「はーぁ」と嘆息しながら一日中涙が止まらなかった。これは本当に冗談抜きでしばらく泣き続け、周りの人を心配させたものだった。感情と感情とがブチンブチン弾けあってぶつかり合って、涙を流したあとまた涙を流した。自分が何より音楽を愛するきっかけになった人たちを、こんなふうに丁寧に映像化してくれて本当にありがとう、イチャモンの一つでもつけに行ってやろっかと思ったけど、ラミの演技が本当に素晴らしくて私は頷き続けるしかなかった。そういう感謝の感情とともに、

見つかっちゃう!私の好きな人たちが、まだよくわかんないって人たちに愛してる曲が取られちゃう、どうしようって、脳の中がポーン、グルグル、讃美歌のようなピアノの音色、切り裂く歌声。Love of my lifeに乗せてフレディが柔らかく耳に入ってくる。

 

"Don't take it away from me

私から奪わないで

 

Because you don't know

知らないんでしょう

 

What it means to me"

私にとってどれだけ大切なものか

 

Love of my lifeの歌詞。ホントその通り。でもそんなちっぽけな私個人の愛だけで語っていいような音楽じゃぁないんだよね。

実は結構金曜ロードショーの放送後、SNSで色んな人がああでもないこうでもないと憶測や感想が飛び交い、爆デカい感情に包まれて一人しんみりしていたわたしだった。

 

そういえぱ私の後輩の男の子はインスタグラムで[ボヘミアンラプソディを書いたのは、病気が発症してたからなのかなあ]と書いていた。史実からしたら発症のずっと前に書いてる曲だし、なんならもうちょい、ヘテロみがあった頃の曲かなーと個人的には思うので私と彼の間に認識のずれがあった。だけど、ここ最近本当に思うようになったのは『感じたならそれがその人の中で正解なんだ』ってことだ。

私がQueenへどんな爆でか感情を抱いてようとも、私の中のフレディとブライアンとロジャーとジョンがいようとも、それは私のフィルターを通して見られたものでしかない。

 

みんなが見た彼らはみんなのフィルターを通してこそ受け取られるべきだし、それが真なんだと思う。これってたぶん大学受験の時にやった、自分の積み上げた経験をもとに人はものを見てるってやつなんだと思うけど最近やっとわかってきた。そういうもんなんだね。

今更になって「小論文を読む」とか「リンガメタリカ」みたいな参考書を読むと、わー、これってあれじゃんと気付いたりする。社会に出て時間とやりたいことが闘い始めて、最近それにめっぽう負けてしまってるけど、こういうことがあると社会経験は決して無駄じゃないんだと感じられる。

 

話がどんどん逸れたけど、ボヘミアンラプソディの中で史実と異なる所も沢山あったし、ファンとしてツッコミ始めたらキリがない。もちろんそれでもかなり忠実に作られてて、観客を楽しませるためにあのような脚色は必須だった。最高のフィクションを受け取って、沢山のエモーショナルが生まれる。私から奪わないでなんて言えないよ。

 

だけどやっぱり自分の夢想の隣には、必ずQueenがいるのだ。

セダンに乗って21時には迎え来て、リッツでワインを頼んでほしい。まるで古風な男の子みたいに、愛を囁いてくれるのを今か今かと待っている。

Good Old Fashioned Lover Boyの歌詞はいつ見ても可愛くて心がくすぐられる。最高。セリフっぽい演出も入ってるし、こんなの嫌いな人いないよ〜。

家にあるCDだってLPだって全部貸すので、みんなもぜひQueenを聴いてほしいです。かつて好きだった人はもう一度('39みたいに、遥か遠い未来からもう一度来たと思って聴いてみて!)

初めての人は超・有名所グレイテストヒッツからでもぜひ聴いていただきたい。いまなら各曲私の解説も付けます。いらないと思うけど……

それではまた。

(23.11.29追記 紅白でますね!やったあ!読み直したらむず痒くて文章直してたけど、そしたらまたむず痒い文章が追加されただけだった…合掌…)