どうということもない

どうということもないけど 忘れたくない

ロープを握りしめていた話


9月になってしまいましたね。受験生の皆さんはどう過ごしていますか?
辛いですか?苦しいですか?周りのマウンティングや、親からの圧に耐えきれず、生きているのが嫌になっていませんか。
私個人の意見ですが、受験生は夏を制さなくても大丈夫です。そして、高三の9月に、ロープを買いに行った話をしたいと思います。

私は昔からトイレが大好きで、学校ではお気に入りの美しいトイレで昼休みは勉強してそこでご飯も食べるという生活をしていました。そして基本的に予備校でも勉強が行き詰るとトイレに1時間ほどこもって勉強をしていました。そこで、ネットを見たり息抜きをすることもありました。
高校3年生の夏、7月15日のことです。いつも通り、私は予備校のトイレで勉強した後、アイドルのYouTubeを見ていました。

そこで、今も大好きなSHINeeというグループに出会い、高校2年生の初めから続いていた私の勉強漬け生活は終焉を迎えます。
そのグループにすっかり魅入られた私は、彼らが昔出ていたリアリティ番組や、最近出ていたコメディ番組をひたすら動画サイトで見て、当時までの音源を聴きまくり、予備校でも家でも、参考書の下にスマホを忍ばせて常に視聴していました。

過去問なんて1題も解けなかったし、センター試験の過去問も週一くらいしかやらなかった。予備校の講習にも身が入らず、寝ても冷めてもSHINeeのキー君はどうしてこんなにお可愛らしく高貴でお美しいのかということばかり考えていました。
しかし、何も努力していない自分と、過激なダイエットに励み語学に堪能なキー君の差を強く感じ、毎日気圧レベルの劣等感に苛まれていました。

まあそんな感じで30日以上やっていたので、夏の最後の記述模試とマーク模試で大コケ。模試終わりには自己採点するまでもないなと思い、遠くの空を見つめました。

それまではクラスで割かし躊躇しながら話していたはずの受験の話題も、夏が明けるとみんな堂々と語りだしました。ちょうど指定校推薦の話も決まり出す頃で、歓喜に泣く子もいれば、悔しさに泣く子もいました。
堂々とする受験の話の中でも特に嫌いだったのは、クラスのみんなが「夏休み○○○時間も勉強した!」と激しくマウントを取り合っていたことです。ケタが3ケタから勝負なので、2ケタ後半の私はもう話になりませんでした。
志望校はどこにした、第1希望と滑り止めはどこで、センター利用は出す出さない・・・
オープンキャンパスに行った、とか・・・
いや私の高三の長い長い夏休みは!!!SHINeeのキー君と共にあったんだよ!!!違うんだよ!!!そんな時間あればキー君と戯れたかったんだとか、そんな御託を並べて堂々としていられるのもつかの間。
夏の模試が帰ってきて、担任からも親からも予備校のチューターからもこっぴどく叱られました。
全員、私に向かってこう言いました。

「なにこれ?」

夏までの私の狂ったような勉強ぶりや、ケタ違いの右肩上がりから一転して、凡庸な点数、凡庸な偏差値、凡庸なミス、、、。
スタンダードで見ればこれは平均的な数字のかもしれないけれど、それまでトップゾーンを走っていた私にとっては、まるで地を這うような、息の詰まる数字でした。
平均という数字がどれだけ重苦しく、頂点という数字からどんなに堕落しやすいのか知った私は、いつも通り独りで帰りの電車に乗り、いつも通り単語帳を300個進めようとして、諦めました。しばらく下神明駅の端っこでボーッとしていた私は、電車に乗り込み、あんなに好きだったSHINeeのことも忘れ、予備校のある自由が丘の駅で降りました。道を横にそれて、カンカンとうなる踏切を渡り。100均に入りました。1番太いロープを探そうと思いたったのです。

なんとなく、クラスのしょうもない勉強マウンティングや、これから毎日母に激しくどやされて叩かれ「もう勉強なんかしなくていい!高卒で生きろ!」とかクレイジー世迷い言かまされ、泣きながら勉強をしていくことや、勉強していても、チューターからは成果が出なければ勉強していないと言われるのだろうことや、担任からの早慶合格への重圧、これら全てから逃れる手段は、これしかないかなと思った。全部投げ出して、一旦リセットしようと。
今思えば、もっと他に手段はあっただろうと思うのですが。とりあえず、やってみないことには始まらないということで、なんでも型から入る性格ですから、自転車固定用の長くて太いロープを1本、買いました。すごく匂いが強くて、自転車の油の匂いがして、家に帰ってロープをセットする場所を探していると、どうも自分が自転車臭くなってしまい、これを首にくくるのはイヤだな、と正直に思いました。
ん?というかわたし、これで終わるのか・・・?椅子の上に立つと、目の前にはぶわぁっと模試の山、過去問、赤本、参考書。こんなに集めて手段だけ残ってて、遂げずに終わりか?それでいいのか?悔いは残らないのか?

なぜかここでアイドルオタクの自我が出てきて、待てよ、SHINeeのキー君ならここでどう対処するんだ・・・?と考えたところ。きっと、地方からソウルへ何時間もかけて週末の練習に通って、「他の子たちは平日も練習できるのに、自分は週末だけ。レッスンでも怒られて、取り残されている気がして地元へ帰る電車の中で一人泣いた」とまで仰るキーくんなら、「チャンスは絶対逃しちゃだめだよ!諦めちゃだめ、合格しなよ!」と、言うだろうな、と。(ちなみにキー君、これ以外にも数多くの名言を残している、努力家の星。あとかわいい。)

そこで私は、一旦このロープは最後の最後の解決策としてとっておいて、とりあえず様々な重圧に耐え、受験はやるだけやってみよう。自殺するかしないかは、結果が出てから考えようと思いました。
ここで堕落し切った私は1度死んだものとしてみなし、再生しよう、そして、志望校に受かったら、SHINeeのライブに行こう。私を救ってくれた人に会いに行こう、と決意しました。
そこからは毎日戒めとしてロープを学校カバンに入れて、予備校では握りしめながら勉強、家でも勉強。キー君が横で見ていると思いながら毎日激しく努力しました。
「それなんなの」と言われることもありましたが、私にとっては希望と絶望のロープなので、「お守りみたいなもの」と返していました。なんなんほんと自分。怖いわ。

それでまあ、功を奏したのか、第1希望の大学に合格出来て・・・。いやマジでSHINee、推してて良かった。今思えば、夏にSHINeeに出会って、よかったんじゃないかなと思います。私の生きる道しるべとなるキーくんに出逢えたし、あの時SHINeeに出会ってあんなに推してなかったら、今の私はいないだろうなと。何よりも、プルンバムに出てるジョンヒョンに、ジョンヒョンが亡くなる前に会えてよかったなと。

実は今でもそのロープが椅子の収納にあるんですけど、もうしばらく使うことはなさそうです。これが必要になる時が来たら、その時はその時で、脳内のキーくんがきっと助けてくれるんだろうなと思っています。


だから、何か悩んでる方は、一旦それを解決策として置いておくと、熟成されて発酵されて、いい感じの仕上がりになるかもしれません。今手元にある自転車用のロープは、時も経ち尚更匂いが激しそうですが、不思議と嫌な感じがしないものです。自分の決断をそっ閉じするのも、悪くないなと。決断もまた、悪くないですけど。