どうということもない

どうということもないけど 忘れたくない

※この物語はフィクションです


※この物語はフィクションです


ギラギラと照りつける店内の照明の中で、私はただ1人、ポツリと浮いていた。出勤が終わると大学へ行ったし、アフターなんて行かずに渋谷から山手線に乗って、眠気と戦いながら田町駅で降りる。


出勤は朝の6時。平日は5時45分に渋谷に着く電車に乗っていた。早起きして、ピンク地にたくさんレースやらビーズが着いたドレスを着る自分の阿呆らしさ、不格好さに涙を流した日もあった。周りの子達はこれから起きて大学へ行くのか、と思うと余計に涙が止まらなかった。


最も若いのは、私より一つ下の子だった。当時19歳の、年端も行かない女子大生で、金髪に人形のような大きい目がよく映えた。実家がとてもお金持ちで、一応大学には在籍しているが、ほとんど行っている様子はなかった。

「私マジでお金持ちなんです、家とかやばいデカくて、チョーすごいんです、でもね、この職業になる夢諦められなかった」


顔も小さく可愛くて、夜から歌舞伎で働き、月に何百万も稼いでいた。それも全て、薬やホストに使ってしまい、口座残高は0。スレていたが、セックスが嫌いな不思議な子だった。私が今まで出会った人間の中で、この子が一番好きな人間だ。そして、それはこれからもきっと揺らがない。


夜に歌舞伎の店で2位をもぎ取っていた彼女は、毎日飲みすぎて朝は必ず血を吐いていた。マロリーワイス症候群というやつだ。



私はたった一人の年下がとてもかわいくて、大好きで、心配で、いつもトイレで彼女の背をさすっていた。そんな私は、どうやら彼女に気に入られたらしく、

「○○さぁん、この店オバサンばっかで今やばいじゃないですかぁ、だからウチらでナンバーワンになってぇ、店の看板になりましょ、ウチ絶対1位とるんで、頑張りましょ」

真っ白な便器の前でドカッと座り込み、口の端から真っ赤な血を流す彼女からそう、何度か言われていた。


その度に「ありがとうな、お前も無理すんなよ、いずれ死ぬぞ」だとか、「頑張ろうな、ウチら」と言っていた。この時が自分の人生のハイライトかもしれない、と思うくらい、暗闇の中で鈍く光っていた。


しかし、精神的に耐えることが出来ず、3ヶ月目の日に、思い立ったかのように、私はこの店から飛んでしまったのだった。


続く・・・かもしれない