どうということもない

どうということもないけど 忘れたくない

ランドセルはピンク色


小学保健ニュースをギロリ、と睨みつける。

鐘がなるまであと少し。この時間が終わりさえすればいいのだ。

毎日、来る日も来る日も。何年も前にやったような気がする簡単なクイズの繰り返し。赤ペンの乾いてない所が手につくのが最悪。勉強とか呼ばれてるなぞなぞもくだらなく思えて、教科書の下でずっと絵を描いた。めくじら立てた先生からノートを没収されようと、メガネとバカにされようと、どうだってよかった。正直自分より難しい本読んでるヤツいないと思ってたし、正直自分より難しい問題解けるヤツもいないと思ってた。


ランドセルはピンク色だった。水色のランドセルにされそうになったから、咄嗟の我儘で、真逆のピンク色がいいと喚いたのだ。シナモンロールの柄が彫ってあって、お母さんがかなり渋った。

今思えば人生で初めての反抗。


小学校からの帰り道、誰かと一緒に帰るなんて生半可なことはしない。一人で島崎藤村を読みながら家に帰ると「ご飯を買って食べて」という書き置きと一緒に千円札が置かれていた。

これを握りしめてミニストップまで歩く。野菜が少しでも入ってるのがいい。かき揚げのそばのあっためて食べるやつを買う。そうしたら、残りの500円で駅前の本屋さんまで自転車を飛ばし。集めている漫画の単行本を一冊買うのだ。腕が伸びる主人公、エクソシストの主人公、謎の赤ん坊がやってきて特殊な弾を撃ち込まれる主人公、何頁ものパルプに詰まったインクの香りがより強く脳に働きかける。主人公を見つめるアタシは、主人公。


空想の世界だけが私のことを知っていたし、私も正直、空想のことばかり考えていた。仲の良かった女の子と決別するきっかけになった喧嘩をしたのが小学校四年生。四年生のアタシは、かなり、つっけんどんで、かなり、とんがっていて、


世界は全て、アタシのもんだった。


日々の空想をきっかけに毎日漫画の創作をした。夜中に寝たふりをして、そろそろと起きて2時にアニメを見ていた。その全てを赦されていたが、何か一つでも赦されないことがあると、パシン!とひとつの平手打ちで世界を変えられていた。


アタシも、パシン!で、世界を変えれんのかもな、とさえ、思い込んでしまうほどには。


そのうち、その価値観がとんでもない話に発展するんだけど、それはまた、べつのはなし。


ランドセルがピンク色で、エンジェルブルーの青いパーカーで、ジーパンと、VANSのピンクのスニーカー。分厚い眼鏡。

四年生のアタシは、何を見ていたんだろう。どうしてあんなにも、つっけんどんで、人を信用できなくて、抱きしめてあげたくなるくらい臆病だったんだろう。

ちょっと思い出すために、いま、こうやって懐かしさと歯痒さと一瞬に文に起こしてみている。


あと何回かくらいは、小学生の頃を思い出すどうしようもない回想に付き合ってもらいたい。よろしく。